Beanの日記

徒然日記

[読書]博士の愛した数式 小川洋子

80分間の記憶しかもたない博士と、家政婦とその息子の過ごした、かけがえのない時間をつづった作品。作品のあちこちで、静かに涙がでる。
どうせ博士の記憶は80分しかもたないのだから、いい加減に接してもよいはず。ところが、物語の家政婦もその息子も、博士と過ごすひと時ひと時の時間をとても大切にする。その姿が読み手の心をうつ。
小川洋子さんの作品は、他に、『薬指の標本』、『六角形の小部屋』を読んだことがある。これらの作品と同様、写実的な一方でどこかしら幻想的な感じが漂う。博士が家政婦の息子につけたニックネーム「ルート」以外に、地名や人名などがいっさいでてこないことが、よりいっそう、幻想感と透明感を強調していると思う。
蛇足になるが、最近、読んだ作品で、固有名詞が殆ど出てこない作品があった。いしいしんじぶらんこのりである。この作品も、本作品と同様、幻想感と透明感のあるきれいな作品である。